HIGHLIGHT

地球規模の気候変動や自然災害の多発による人新世の到来、AIやロボット工学が暗示するシンギュラリティの予感、さらには人が神の領域に立ち入る遺伝子工学やハイブリッド生命体の誕生など…
本展が焦点を当てるのは、驚くほど生々しく描かれた、楳図かずおの先見性に満ちた代表作『わたしは真悟』『漂流教室』と『14歳』。そして、比類なき芸術家楳図かずおの27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』を初公開。全101点の連作絵画としてご鑑賞いただけます。

本展展示内容の一部に、刺激が強いと感じる可能性のある表現が含まれています。あらかじめご了承ください。

27年ぶりの新作

「かつて子ども・・・だった私たちへ」
40年の時を超え巨匠・楳図かずおが語り、描く! “アイ”の行方 シンゴの物語 〔第二章〕

1990年代の『14歳』以来、楳図かずおにとって実に27年ぶりの新作となる『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』を本展では展示します。1980年代に描かれた『わたしは真悟』の続編であり、同時に時空を超えたそのパラレル・ビジョン(並行世界)でもあります。制作に4年の期間を費やし、完成した本作は、アクリル絵画による101点の連作という方式を採っています。生き生きとして目を見張らされる筆触や、きらびやかで吸い込まれるような色彩で表現されており、時系列に沿って展開される物語性を持つ点ではマンガに近い部分もありますが、マンガと違ってコマ割りはなく、一枚一枚が独立して鑑賞できるものとなっています。

楳図かずお《ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》(一部)
2021年 アクリルガッシュ、紙©楳図かずお
「ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」©楳図かずお
わたしは真悟
「わたしは真悟」©楳図かずお/小学館
『わたしは真悟』
12歳の悟と真鈴の手によって、一介の工業用ロボットが意識を持ち、やがて自らを“真悟”と名付け動き始める。大人によって引き裂かれた、悟と真鈴の愛。変わらぬその思いを、お互いの元に伝えるという目的を持った真悟の意識は無限に拡大していき、やがてそれは神のレベルに達していった……。(1982~1986年連載)
‘80年代に描かれた本作は、コンピュータ・ネットワークが拡大した現在のニューエイジ感覚を、楳図が無意識の内に予知し、表現していたかのようである。緻密に描かれた絵画のような作風の見事さや、コンピュータ社会への警告など、あらためて評価されるべき作品と言えるだろう。

Kazuo Umezz

ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館

制作に4年の歳月を費やした『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』は、1990年代の作品『14歳』以来、実に27年ぶりとなる新作です。

本作は1980年代に描かれた『わたしは真悟』の続編であると同時に、時空を超えたそのパラレル・ワールド(並行世界)でもあるのです。本作は時系列に沿って展開され、物語性を持つ点ではマンガと親和性はあるものの、101点から構成される各作品にはコマ割りがなく、1枚1枚が絵画作品として制作されています。
『わたしは真悟』から40年の時を超え、楳図かずおが生み出した新たなシンゴの世界をご覧ください。

exonemo

《回想回路》

本作品は、『わたしは真悟』が描かれてからおよそ40年が経った現代において、もし真悟の思念が今もインターネットの中に生きていたらというアーティストの想像から着想されています。
漫画のコマ割りのように大小さまざまなモニター12台が垂直に配置され、画面からは『わたしは真悟』の場面がゆらゆらと映し出されます。その画面を見ているのはあたかも今現在の真悟が、当時見たであろう悟と真鈴を回想しているかのようでもあります。
そして床には大量のケーブルが敷き詰められ、その上には作中で悟と真鈴が東京タワーから飛び移る際に出てくるランドセルが置かれ、1970年代の昭和歌謡がノイズとともに流れていいます。大量のケーブルは当時の記憶が流れ続ける回路であり、その回路を通じてモニターには『わたしは真悟』の情景が無限の組み合わせで立ち現れるのです。このように《回想回路》はマンガ作品『わたしは真悟』の延長線上に続く想像上のマンガの世界であるとともに、東京タワーを背景に現実空間にそびえ立つ『わたしは真悟』のモニュメントなのです。

エキソニモ
Photo by Niko
エキソニモ
千房けん輔と赤岩やえにより、1996年よりインターネット上で活動開始。2000年以降は、表現の場を実空間へと拡張し、デジタルとアナログ、バーチャル空間と実空間など、ふたつの世界を自由に横断しながらその境界線にフォーカスしたプロジェクトを数多く手がけている。2015年よりニューヨークを拠点に活動。2020年に個展「UN-DEAD-LINK」(東京都写真美術館)開催。2021年、芸術選奨 美術部門 文部科学大臣新人賞受賞。

Yuma Tomiyasu

《Shadowings》

本作品のタイトルにも使用されている「Shadow」は英語で「影」という意味とともに「霊」を意味する単語です。
現実と非現実のはざまや、不可視のものに対する知覚を擬似的に体験させる作品を制作している冨安は、本展において楳図かずおの新作《ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館》の素描101点が展示されている空間の中央に自作を設置し、空間全体の演出を行なっています。冨安が制作した部屋のような空間には、斜めに伸びる梯子や仮面、あるいはピンクのボタンなど「ZOKU-SHINGO」の作中に関連したオブジェが配置され、時間とともに照明が変化していきます。また、冨安の描いた絵画には、少年少女のシルエットや、丸、三角といった『わたしは真悟』を想起させるイメージが登場します。冨安は楳図かずおが現実と非現実といった次元の異なる世界を地続きに描く不思議なパースや構図に強い興味を持ったそうです。
それと同時に科学的には取るに足らないと考えられがちな「影」や「霊」的なもの、あるいは「気配」といったものへの楳図の関心にも共感したと言います。さまざまに変化する照明によって、冨安はそのような二人の共通項を浮かび上がらせようとしているのかもしれません。

冨安由真
冨安由真
2005年に渡英し、ロンドン芸術大学Chelsea College of Artsにて学部と修士を学ぶ。帰国後、2017年に東京藝術大学にて博士号(美術)取得。現実と非現実の狭間をモチーフに大型のインスタレーション作品や絵画作品を数多く発表する。主な個展に「アペルト15 冨安由真 The Pale Horse」(金沢21世紀美術館、2021年)、「漂泊する幻影」(KAAT 神奈川芸術劇場、2021年)、「くりかえしみるゆめ Obsessed With Dreams」(資生堂ギャラリー、2018年)など。主な受賞歴に第21回岡本太郎現代芸術賞 特別賞受賞(2018年)など。

Tomoko Konoike

《かずお14歳》《振り子 ゴキンチの先生》《14歳 左手のエチュード》

大小2点のドローイングと映像、そして階段と滑り台のオブジェで構成されたインスタレーション作品《かずお14歳》では、鴻池が楳図かずおという芸術家の内面に迫ろうとする過程を垣間見ることが出来ます。楳図が最後に描いたマンガ作品『14歳』をテーマに作品制作を依頼された鴻池は、当該作品の優れた先見性や予見性よりも、楳図の作家としての延々と続く緊張感や過剰性に強い興味を持ったと言います。その感覚をもとに最初に描いたのは、作品最終章で登場する未来版チキンジョージのような少女でした。 その後、楳図かずおとの対話を通じ、鴻池にとって昇降する階段や滑り台が象徴的な意味を持つようになります。それは常に昇ることを目指しながらも、そこから滑り降りることによっていったん「チャラ」になることを繰り返す楳図に、鴻池は楳図の芸術家としての姿勢と自身との共通性や連続性を見出したからです。そして大作ドローイングでは、楳図が14歳だった頃の世界を想像して描かれています。左側の少年の隣に立っているのは「ヘビ女」に変身する直前の女性のようでもあり、楳図が親密にしていた母親のようでもあります。そしてその背景にはさまざまな動植物が描かれており、当時は人間と自然との間の境界が今よりもはるかに曖昧だったことを暗示しています。またドローイングの横に展示された虫の映像は、鴻池のアトリエ近くに生息するスズメガで『14歳』のラストシーンで登場する青虫を想起させます。《振り子 ゴキンチの先生》は、地球上で子どもたちの帰りを待つゴキンチ(ゴキブリのキャラクター)の先生の頭部を模して制作され、頭部が振り子のモーターによって空中を行き来する作品です。また《14歳 左手のエチュード》は鴻池が『14歳』の作中の気になるセリフを左手で書き起こした作品です。その結果、そのぎこちない文字はあたかも作中の登場人物が直筆で書いたような印象を感じさせます。

鴻池朋子
撮影:永禮 賢
鴻池朋子
玩具のデザインを経て、様々なメディアで現代の物語をトータルインスタレーションで表現。近年、地形や気候なども巻き込むサイトスペシフィックな展示や、触覚の可能性を探るプロジェクトを行い、芸術の根源的な問い直しを試みている。1960年秋田県生まれ。主な個展に「インタートラベラー 神話と遊ぶ人」(東京オペラシティアートギャラリー、霧島アートの森、2009年)、「獣の皮を被り 草の編み物」(ギャラリーヒュンダイ、韓国、2011年)、「根源的暴力」(神奈川県民ホール、2015年、 群馬県立近代美術館、新潟県立万代島美術館、2016年)、「ハンターギャザラー」(秋田県立美術館、2018年)「Fur Story」( Leeds Arts University、イギリス、2018年)、「ちゅうがえり」(アーティゾン美術館、2020年)。著書『どうぶつのことば 根源的暴力をこえて』(羽鳥書店)他多数。2017年芸術選奨文部科学大臣賞、2020年毎日芸術賞受賞。2021年夏、高松市美術館個展、瀬戸内国際芸術祭。

Curator

窪田 研二
窪田 研二
上野の森美術館、水戸芸術館現代美術センター学芸員を経て2006年よりインディペンデント・キュレーターとして活動。 2012年−2016年、筑波大学芸術系准教授として創造的復興プロジェクトに参加。 政治、経済といった社会システムにおいてアートが機能しうる可能性をアーティストや大学、企業などと協働し、様々な文化的フォーマットを用いて試みている。
 「X-color グラフィティ in Japan」(水戸芸術館現代美術センター、2005年)、「マネートーク」(広島市現代美術館、2007-2008年)、「六本木クロッシング2010−芸術は可能か?」(森美術館、2010年)、「Don’t Follow the Wind」(福島の帰還困難区域内某所、2015年-)、「Asian Art Biennale」(国立台湾美術館、2017-2018年)、「Reborn-Art Festival 2021-22 (夏会期)」(宮城県石巻市、女川町) 他、国内外の展覧会キュレーションを多数手がける。 現在、学習院女子大学非常勤講師、川村文化芸術振興財団理事。

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楳図かずおは、歴史に名を刻む傑出したマンガ作品を数多く私たちのもとへ届けてくれた。そのジャンルは恐怖マンガからギャグマンガ、少年・少女もの、劇画、SF、アクション、さらにはウメズ・ワールドとしか呼びようのない、余人ではとうてい分類不能な領域に至るまで、ひとりの作家の手によるものとは思えないほど幅広く、深い。その前人未到の業績は、まさしくマンガ界の宝という言葉がふさわしい。けれども同時に、楳図作品には、マンガという既存の分野だけでは語りきることができない先見的な世界観や幻視的なヴィジョンが、至るところで発揮されている。これらの側面をとらえるため、より普遍的な意味での「芸術家としての楳図かずお」を提示しようというのが、本展の趣旨である。 その核心に存在するのは、未来への希望を作り出すのが、どんな危機を前にしても勇気を持って一歩を踏み出す、常に若々しい私たち一人ひとりの内なる生命活動だということだ。たとえ破滅的な苦境にあっても、決して希望を捨てず、不滅と呼んでよい他者への汲み尽くせぬ愛に導かれて奔放に想像し、大胆に行動する!それが楳図かずおを「大美術」として読み解く最大の鍵なのだ。 椹木野衣

Advisor

椹木 野衣(美術評論家)
1962年埼玉県秩父市生まれ。主な著作に『増補シミュレーショニズム』(ちくま学芸文庫)、『日本・現代・美術』(新潮社)、『反アート入門』(幻冬舎)、『後美術論』(第25回吉田秀和賞)、『震美術論』(平成29年度芸術選奨文部科学大臣賞、ともに美術出版社)がある。『戦争と美術1937–45』(国書刊行会)では編集委員を、『日本美術全集19 拡張する戦後美術』(小学館)では責任編集を務めた。現在、多摩美術大学教授、芸術人類学研究所所員。